2026.02.26

「DIG:R STUDY MEETING #009」レポート

2026年2月13日(金)、広島のまちをユニークな視点で深掘りし、自分にとって豊かなライフスタイルを考えるきっかけをつくるトークイベント「DIG:R STUDY MEETING #009」が開催されました。
今回のテーマは 「カフェから広がるまちづくりの未来」。ゲストには、スペシャルティコーヒー専門ロースター兼カフェ「BREATH HIROSHIMA」を創業し、広島のまちに新しいつながりを生み出している佐藤大地さんをお迎えしました。

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■日時 2026年2月13日(金)19:00〜
■場所 BREATH HIROSHIMA SPACE(広島市南区段原3丁目15-3)
■クロストークゲスト
BREATH HIROSHIMA 代表/佐藤 大地さん
■聞き手
HLL代表理事/水木 智英さん
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会場に参加者のみなさんが続々と集い、イベントへの期待感が漂いはじめたころ、まず振る舞われたのは、BREATH HIROSHIMAによるウェルカムコーヒーでした。用意されたのは、エチオピア・ゲシャビレッジの豆。フローラルな香りが印象的で、ジャスミンやフレーバーティーを思わせる優雅な風味が会場全体に広がり、カップを手にしたみなさんの表情も自然とほころびました。

ゲストスピーカーの佐藤大地さん。ちなみに、この日提供されたコーヒーは、佐藤さんが最も好きな銘柄のひとつだそうです。

コーヒーが振る舞われるなか、聞き手を務めるHLLの水木智英さんより、企画のきっかけが語られました。入川ひでと氏の著書『カフェが街をつくる』にある「カフェは人・文化・アイデアを結ぶ都市のインフラである」という一節に強く共感したことが、出発点だったといいます。

巨大な施設や再開発ではなく、人が出会い、対話が生まれ、文化が循環する場こそが都市の本質的なインフラではないか —— その考えを広島で体現している人物として佐藤さんの存在が思い浮かんだと語られると、会場の期待が静かに高まりました。大きな拍手に迎えられて佐藤さんが登壇し、トークセッションが幕を上げました。

トークセッションでは、佐藤さんの生い立ちやこれまでの歩みをたどりながら、コーヒーとの出会いや独立に至るまでの経緯、そして現在の活動について、写真を交えながら丁寧に語られました。

佐藤さんは1993年、東京都世田谷区で生まれ育ちました。父親が営む洋食店の二階で暮らし、商店街に囲まれた環境のなかで幼少期を過ごしたといいます。

学生時代はスポーツや音楽活動に打ち込み、大学では文学部哲学科を専攻。哲学書の原典を読み、議論を重ねるなかで思考を鍛えたといいます。哲学を深く学んだのちコーヒーの道へ進むという異色の歩みに、会場からは驚きの表情も見られました。また、オーケストラ部では学生指揮者を務め、組織運営や人との関わり方についても学んだと振り返りました。

大学時代に始めたカフェでのアルバイトが、後の大きな転機となります。やがて大学を中退しコーヒーの世界へ。京都の老舗「小川珈琲」や「DEAN & DELUCA」、「タリーズコーヒー」など多様な現場で経験を重ね、カフェ運営やオペレーションを体系的に学んでいきました。

2017年、佐藤さんはスペシャルティコーヒーの草分け的存在である「OBSCURA COFFEE ROASTERS」に入社。旧万世橋駅下のスタンドや三軒茶屋で経験を重ね、三軒茶屋では初めて店長も務めました。翌年には広島・袋町店へ異動。この転勤が、広島との本格的な縁の始まりとなりました。

そのころ並行して、日本スペシャルティコーヒー協会主催のバリスタ大会にも挑戦し、全国26位という結果を残しました。出場のきっかけは、2014年の世界大会で日本人優勝者が生産者や仲間と肩を組み、胴上げされる姿を目の当たりにしたことだったといいます。「いつか自分もあの舞台に立ちたい」という強い思いが挑戦への原動力になったと振り返りました。

広島でお店をもつことになった背景について話が及ぶと、佐藤さんは、現在のパートナーである香奈恵さんとの出会いに加え、コロナ禍で都市中心部が苦戦する一方、生活圏の店が支持を集める姿を目の当たりにしたことを挙げました。地方回帰の兆しや、かつて暮らした東京の街の変化も重なり、自身の学びを広島で生かしたいという思いが次第に明確になっていったと語りました。

そして2020年に退職。翌2021年、段原に「BREATH HIROSHIMA」がオープンしました。

水木さんから店名の由来について尋ねられると、「『BREATH』は音楽の“ブレス記号”に由来しているんです」と佐藤さん。演奏のなかで次のフレーズへ進むために一度息を吸う“間”のように、日常のなかで立ち止まり、自分のリズムを整える場所でありたい —— その思いが込められているそうです。また、あえて店名に「コーヒー」という言葉を入れず、「BREATH HIROSHIMA」という名前そのものをコーヒー店として認知される存在にしたいという意思、そして広島を代表する店を目指す決意から「HIROSHIMA」を冠していると語られました。

さらに佐藤さんは、「BREATH HIROSHIMAは、コーヒーを“芸術と同様に”捉えているお店です」と続けます。生産地の背景や作り手の営み、焙煎や抽出による表現の違いまで含め、一杯を味わう体験は芸術に触れることと重なるのではないか。その考えに、会場のみなさんも興味深そうに耳を傾けていました。

現在は段原に2店舗、さらに広島県立美術館近くのスタンドを加えた3店舗体制で運営。豆のディストリビューション支援や創業コンサルティング、イベント企画などにも取り組んでいることが、写真を交えながら紹介されました。

トーク中盤では、佐藤さんの活動が店舗運営からまちへと広がっていった背景が紹介されました。その起点となったのが、広島都心会議主催のライフカルチャーマーケット「Coffee Culture Next」です。

第1回は、まちづくり団体の取り組みを集めた同時多発イベントとして開催され、「文化の道」の賑わい創出を目指しました。

佐藤さんにとって本イベントは、「ロースター視点のキュレーション」に挑戦する場でもありました。主催者が一律に出店者を選ぶのではなく、ロースター自身が推したい人や店、プロダクトを招く形式を採用。ドーナツやパン、器、本、アートなども並び、感性を通じた出会いの場が生まれました。

こうした取り組みを通して、「まち」との新たな接点が生まれ、参加者とロースター、そして地域がゆるやかにつながっていく機会になったと振り返ります。

トークセッションも後半に差しかかったころ、水木さんから「カフェから始まるまちづくりの未来」について問いかけがありました。それを受けて佐藤さんは、この日のキーワードともいえる「カフェはまちを若返らせる存在になり得る」という考えについて語りました。

かつては公民館や集会所など、人が自然と集まって時間を共有する場所が地域の中にありました。しかし、インターネットの普及や個人活動の増加により、そのような場は希薄になっています。佐藤さんは、そうした役割がカフェへと移行しつつあるのではないかといいます。

まちの中で人と人をつなぎ、時間を共有する場であること。その役割について、佐藤さんは、カフェには「人が若々しく生きるための価値」があると力強く語りました。その価値を「感性の刺激」「冒険」「コミュニティに存在している実感」という三つのキーワードで示します。

スペシャルティコーヒーには、これまでに出会ったことのない香りや味わいがあり、その新鮮な体験が感覚を揺さぶり、日常に小さな変化をもたらします。そして数ある豆の中から自ら選び、味わい、その体験を誰かに伝えたくなる。その一連の行為は単なる消費ではなく、自ら選択し行動する“冒険”でもあるのです。

さらに、そうした体験が生まれる場としてのカフェには、自分がそこにいてよいと感じられる空気があります。誰かに受け入れられ、社会の一員として存在している実感を持てること。それこそが、人がいきいきと生きるための土台になるのではないかと提案しました。

「いいカフェがあると、まちやコミュニティは若い状態になる」という言葉には、まちの新陳代謝を促す存在としての可能性が込められています。

この話を受け、水木さんも、コーヒー店がまちづくりと高い親和性を持ち、企画段階から深く関わる姿勢に大きな可能性を感じたと述べました。小さな店の価値に気づくことが、これからのまちづくりにも好影響をもたらすのではないかと期待を寄せます。

カフェは単なる飲食の場ではなく、人の感性や行動、存在そのものに働きかける場になり得る——その言葉に、会場では共感のうなずきが広がっていました。

質疑応答の時間には、会場からいくつもの質問が寄せられました。最年少の18歳の高校生をはじめ、老舗珈琲店の継承を考えている方、大学に通いながら間借りでコーヒースタンドを営む方など、立場も背景もさまざまな方々から問いが投げかけられました。そのなかでも、佐藤さんの回答で特に印象に残ったものを一つご紹介します。

佐藤さん
「子どもの成長を見れた時に、すごく嬉しい気持ちになりました。日々お店に立っていると、帰りがけの子におかえりって言えたり、常連の方との何気ないやりとりがありますし、子どもが少しずつ成長していく姿を見ることもあります。

いつも来られる方が来ないと『今日はどうしたのかな』と自然に思うんです。その感覚が生まれた時に、地域と繋がっているという実感を持てました。そしてそれを他の現場のスタッフの方が言うようになった時に、いいお店が作れているなと同時に感じました。」

人が行き交い、会話が生まれ、日常がゆるやかにつながっていく場を育んできた佐藤さん。まちとの関わりを実践してきたからこそ語られた、あたたかな回答でした。

イベントの最後には、前述の「Coffee Culture Next」を共に立ち上げた松村さんと諏訪さんから、今後の展望が語られました。

コーヒーを単なる嗜好品ではなく「カルチャーの入り口」と捉え、まちの中に文化を感じられる場をつくりたい —— そうした思いが企画の出発点にあるといいます。また、「カフェはまちを若返らせる」という言葉にも共感しながら、「コーヒーを飲みに行く」のではなく、「あの店のコーヒーを飲みに行く」と目的を持って人が集まることが、まちの活力やライフスタイルの質の向上につながるのではないかと話してくれました。

今後もコーヒーをきっかけとした取り組みを継続し、広島のまちに新たな文化の風景を生み出していきたいという思いが語られ、人と人、文化とまちを結び直す可能性を感じさせる締めくくりとなりました。

「カフェはまちを若返らせる」という言葉は、会場のみなさんの心に残ったようです。今回のトークセッションは、カフェという身近な存在を入り口に、まちづくりや人と人との関係性、そして文化がめぐる仕組みについてあらためて考える機会となりました。参加者のみなさんそれぞれが、これからのまちの未来や暮らしの価値に静かに思いを巡らせる、実りあるひとときとなったのではないでしょうか。

取材・文:三輪美幸
写真:おだやすまさ

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