2024.08.09
エリアプラットフォーム・カミハチキテル
広島都心のメインストリート・相生通りを主な舞台に次世代型社会実験で注目を集める、エリアプラットフォーム「カミハチキテル」。代表の若狭利康さん(株式会社わかさ屋呉服店・代表取締役)と、事務局の柴崎厚美さん(大旗連合建築設計株式会社・1級建築士)と、今田順さん(地域価値共創センター)に、同団体が掲げるビジョンや、その実現に向けた取り組みについてお話をうかがいました。
目次
・まちづくりの原動力はポジティブな危機感
・社会実験で見えた都心の新しい景色
・欲しかったのは“安心安全に憩える”公共空間
・広島の都心を世界のスタンダードへ
まちづくりの原動力はポジティブな危機感
カミハチキテルの活動エリアである広島市の紙屋町・八丁堀といえば、中・四国地方を代表する繁華街。「いつもたくさんの人で溢れかえっていた」と話すのは、同地区にある商店街で3代続く呉服屋を営む、カミハチキテルの代表の若狭利康さんです。
しかし2000年代頃から、郊外に大型ショッピングセンターが乱立。進展のなかった広島駅周辺の再開発も進み始めます。当時すでに紙屋町・八丁堀地区の商店街とデパートなど大型施設で構成されたまちづくり組織で、様々な施策に携わっていた若狭さんですが、このままでは八丁堀・紙屋町は衰退してしまうという危機感から、地域全体でまちづくりを行う「エリアマネジメント」への移行を模索し始めたと当時を振り返ります。
そして同エリアのエリアマネジメントの機運が一気に高まったのは2017年。
若狭さんが所属する「広島市中央部商店街振興組合連合会」と、紙屋町・基町地区を中心に活動する「紙屋町・八丁堀まちづくり団・基町にぎわいづくり協議会」が、エリアマネジメントに関する合同勉強会を開始。
さらに他のエリアマネジメント団体も加わって、2018年5月に「全国エリアマネジメントネットワークシンポジウム」(※1)の広島招致を実現。続いて同年10月に紙屋町・八丁堀地区が『都市再生緊急整備地域(※2)』に指定されると、「広島県や市が同エリアのエリアマネジメントに関心を持つようになり、社会実験を今すぐやろうと話が一気に進みました」(若狭さん)
※1 全国エリアマネジメントネットワークシンポジウムエリアマネジメントに取り組む人々が互いに学び合い、深め、広めていくことを目的に、2016年の同ネットワーク設立以降、毎年全国各地で開催されているシンポジウム。
※2 都市再生緊急整備地域…都市の再生の拠点として、都市開発事業等を通じて緊急かつ重点的に市街地の整備を推進すべき地域とし、都市再生特別措置法に基づき、国が政令で定める地域のこと。2020年9月には「広島駅周辺地域」と「広島紙屋町・八丁堀地域」の両地区を「広島都心地域」に統合した上で、新たに、その一部が特定都市再生緊急整備地域に指定されました。
社会実験で見えた都心の新しい景色
そして行われた社会実験が、人のためのウォーカブルな空間をつくる社会実験「#カミハチキテル-URBAN TRANSIT BAY-」(実施期間:2020年3月1日~4月26日)でした。
紙屋町・八丁堀エリアに3つの「人が集い・憩える空間」をつくるというこの社会実験は、最終的にグッドデザイン賞2020をはじめデザインアワード4冠を達成するなど、多方面から高く評価されました。
特に①のAエリアは、国内最大規模となる全長53mに及ぶパークレット(※3)を車道に出現させ、コンテナをリデザインした店舗でカフェメニューやビールを提供するなど、通過点に過ぎなかった場所に憩いの場を創出。その様子は多くのメディアで紹介され、市民の注目を集めました。
もちろん、全てが順調だったわけではありません。当初は一部上場の大手企業の協賛のもと実行する予定が実施目前で協賛が取り消されたり、新型コロナ感染症の拡大など、想定外のトラブルにもたくさん見舞われました。
しかし壁が立ち塞がるたびに「いろんな人間が立ち上がってくれた」と若狭さん。資金面ではパークレット用の木材や屋外照明器具、植栽は、それぞれ企業や組合が現物提供で協賛してくれたり、仮店舗として使ったコンテナのリデザインにかかる費用などはクラウドファンディングで募り、短期間で目標金額を達成するなど、活動するにつれ協力者がどんどん増えていったそう。
※3 パークレット(Parklet)
サンフランシスコが発祥で、歩道に隣接する車道をパブリックな場所としてベンチや植栽、駐輪場、アートなどに活用するもの
欲しかったのは“安心安全に憩える”公共空間
それからおよそ1年後には、第2弾となる「#カミハチキテル2―MOTOMACHICRED URBAN TERRACE」(2021年2月15日~2021年4月16日)を実施。しかしここでまた大きな壁にぶつかります。
2021年といえば、長引くコロナ禍に多くの人が疲弊し、社会もwithコロナを模索していた時。地元の新聞にこの社会実験が「賑わい」をつくる社会実験として紹介されると、「この時期に賑わいとは何事だ!」という苦情が広島市や事務局に相次ぎます。
しかし、そもそも目的は賑わいづくりではなく、ソーシャルディスタンスを取り、人にとって心地よく、安心安全に憩える場を都心の公共空間につくること。さらにこの実験にはコロナ禍で困窮していた飲食店の支援という目的もありました。関係各所と根気よく話し合い、最終的になんとか実行まで漕ぎ着けました。
「実際、実施してみると、クレームは1件もなかったんです。その時に思ったのは、人は前例のないもの、見えないものに対しては批判的になりやすいのかもしれないということ。だから「こういう将来もあるかも」「もしかしたらこっちの方がいいんじゃない?」と、
ビジョンやそれに基づくprototype(試作品)を作って、まちに実装して、その応答をもらう。それを繰り返しながら、安心、安全な集う場所を丁寧に作っていくということの大切さを、2つの社会実験を通して感じました」(今田さん)
広島の都心を世界のスタンダードへ
2021年、カミハチキテルは広島が目指す都市像として「カミハチミライデザインver.0.5」というビジョンを打ち出しました。その内容はいろんな人の声を受けながら、今も少しずつアップデートを重ねています。
その中で紹介されている「相生通り将来像パース」は「世界一住みたい街」と言われる街、アメリカ・ポートランドにあるPLACE社によって作成されました。PLACE社といえば、世界規模のプロジェクトを多数抱えるランドスケープデザイン会社ですが、“HIROSHIMA”の未来にぜひ貢献したいと、カミハチキテルのプロジェクトに全面的に協力してくれたといいます。
「社会実験やこのパースのように目指すべき姿を視覚的に伝えられると、言葉だけよりも説得力が増す」という柴崎さん。
「毎年参加している広島市内の中学校の職業講和で設計士の仕事についてお話させていただくのですが、生徒たちにまずこの「相生通り将来像パース」を見せて「広島はこんな街を目指してるんだよ」「広島の将来はあなたたちがつくっていくんだよ」と言うと生徒たちの表情がパッと明るくなるんです」
パースを見た子どもたちが何かを感じ、将来、カミハチキテルに参加してくれたら嬉しいと、期待を滲ませます。
柴崎さんの言葉を受け、若狭さんも「パースに描かれているように相生通りのトランジットパーク化が実現すれば、広島都心は世界のスタンダードになるはず」と目を輝かせます。
「2025年春には広島駅と紙屋町・八丁堀を直線で繋ぐ駅前大橋ルートが開通します。広島駅発の路面電車に乗った観光客が初めて目にする広島の街は八丁堀であり紙屋町なんです。「広島って、いい街だな」と世界中の人に思ってもらえる街にしたいし、そこを目指しています。実現するにはもっとたくさんの人の力が必要です。清掃活動やアンケート、ワークショップなど、いろんなきっかけを用意していますので、少しでも興味を持っていただけたらぜひ気軽に参加してみてください」
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エリアプラットフォーム・カミハチキテル
民間企業を中心に、行政、大学など紙屋町・八丁堀地区に関わる様々な団体が参画する官民連携のまちづくりプラットフォームです。
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